昔、石動の町に、紅屋という大きな酒屋があった。その頃の人々は「奉公するなら今石動の、角の紅屋か平野屋か」と、歌っていたという。
その紅屋に、小町という娘がいた。生まれつき、脇の下に3枚の鱗がついていたが、両親のほかには誰も知らなかった。
ある夏の日、小町は乳母や女中を連れて、竜宮淵にあそびに来た。
遊び疲れた小町が、しきりに水を欲しがったので、女中は近くの農家へ貰いに行った。
岩に腰をおろして、じっと淵を見つめていた小町は、突然立ち上がって、
渕の岸に近寄ったかと思うと、みるみるうちに、
それはまるで、淵に引きずられるようにして、水の中に姿を消してしまった。
あまりにも突然のことに、乳母は呆然としているだけだったが、
はっと気がつき、大声で助けを求めたが、女中も、誰も来なかった。
日が傾き、小町を飲み込んだ淵は、いよいよ静まりかえって不気味さを増していた。
乳母はすっかり放心状態で、ただただ淵の水面を見つめていた。
すると、淵の真ん中からいきなり大きな音がしたかと思うと、
小町が半身を水面に見せて、乳母に話しかけてきた。
「私は、この淵の、主である。娘に生まれ変わって、人間の世界に住んでみたが、
今日この淵にやってきたら、水が恋しくて堪らなくなり、こうして淵に戻ってきてしまった。
長い間、世話になった父や母、そして皆に、よろしく、礼を述べてほしい。」
そう言うと、小町の姿は再び淵に消えてしまった。
乳母の話を聞いた小町の両親は、初めて、娘の脇の下に、鱗が3枚あった訳を、合点したという。
住所 : 〒932-0002 富山県小矢部市森屋
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